【参考リンク】

現代思想の諸論点

精神病理学の諸論点

現代批評理論の諸相

現代文学/アニメーション論のいくつかの断章

フランス現代思想概論

ラカン派精神分析の基本用語集

2013年11月21日

特定秘密保護法案と長谷部憲法学

最近ちょっと更新が滞り気味でしたね。物理的に多忙なのもあったんですが、それでも新編まどかの物語解釈を纏めて文章にしようなどとかそういう構想が一応あるにはあったわけです。ところが、まあこれがびっくりするほど全く纏まらない。必ずどっかに引っかかって解釈論としての整合性が取れず思考のループから抜け出せない。結果、ただ無為に日々だけが過ぎ更新が滞ったという次第です。

そんな折にTwitterにて「異常な日々の異常な雑記」の管理人である煎茶さんから、秘密保護法案につき意見答申せよという過分なご依頼を頂きましたので、その時のコメントに若干加筆修正し雑感として記しておきます。

特定秘密保護法案「民主主義の危機」反対の声多数 政府は衆院通過目指す

特定秘密保護法案 「治安維持法」復活の危険性も? 〈週刊朝日〉-朝日新聞出版|dot.(ドット)

特定秘密の保護に関する法律案

国家安全保障会議(日本版NSC)創設と表裏の関係にある法案で、現在、衆議院で審議中。内容を大まかに見たところ、普通に怖いと思ったのが、漏洩行為や特定取得行為を「共謀し、教唆し、又は煽動」する行為までも別個に犯罪構成要件として規定している点。

どういうことかというと、刑法の通説である共犯従属性説によれば、教唆犯など共犯の成立にあたっては正犯行為の存在が前提となります。ところが本法案では教唆などの行為につき別個の構成要件を立てていることから、これらは正犯行為を待たずに既遂となる独立罪となります。つまり、実際に漏洩行為や特定取得行為といった「実害」が発生せずとも、ただこれを「共謀し、教唆し、又は煽動」したという理由だけで処罰される可能性があるということです。

田原総一朗 「真相迫れば『扇動』?」と特定秘密保護法案を危惧 〈週刊朝日〉-朝日新聞出版|dot.(ドット)

【秘密保護法案】 『ブロガー処罰 政府否定せず』 〜ネット言論の弾圧が現実に〜 - 暗黒夜考〜崩壊しつつある日本を考える〜

こういう「可能性がある」という事実は、表現活動に対する萎縮効果を生むでしょう。その意味で本法案は憲法の保障する表現の自由との間で少なからず緊張関係を孕むといえる。特に本件は紛うことなき内容規制であり、憲法学の通説である二重の基準論的に言えば「明白かつ現在の危険の法理(Clear and Present Danger)」が妥当する領域となります。また本法案は機密保護立法の国際ガイドラインであるツワネ原則に照らしても問題が多い内容といわれています。

特定秘密保護法案“賛成”“反対”の意見 | 日テレNEWS24

ところで、憲法学界の重鎮であられる長谷部恭男教授が本法案に基本的に賛成の姿勢を取っているのは興味深いところです。長谷部先生といえば「切り札としての人権」論で有名でして、「比較不能な価値の迷路」などの衒学的な憲法理論はなかなか面白かったりもするんですが、他方では「日米安保は憲法原理から自ずと決まる」などという見解もお持ちだったりもします※。そういった長谷部憲法学の諸々を深いところで敷衍していくと、あるいは本法案を追認するような結論もでてくるのかな?という気はしますね。

※日米安保がどうこうというわけではないんですが、それは「憲法原理的に決まる」とかいわれると論理的にそれはどうなのかと思うわけです。

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タグ:法律 憲法
posted by かがみ at 04:18 | 法律関係

2013年11月14日

生活保護法改正案が参院通過。申請手続厳格化がもたらすスティグマ効果。

生活保護法改正案など参院通過 NHKニュース

生活保護法改正法案を成立させてはいけない理由(大西連) - 個人 - Yahoo!ニュース

このまま改正案が衆院を通過するのも時間の問題と思われる。生活保護法の本格的な改正は1950年の施行以来初めて。 確かに、就労による収入の一部を自治体が積み立て、自立の際の支援金として給付する制度など、ある程度評価されるべき制度も盛り込まれていますが、全体的に見れば完全に改悪です。

申請手続の厳格化は、どう言い繕うとも 現状ただでさえ全国至るところで制度の趣旨を曲解したずさんな運用が行われている実態を追認強化するものと言わざるを得ない。 明日をも知れぬ切羽詰まった相談者にこれこれの書類を全部そろえて持って来いとかドヤ顔で言い放つ役人という図が今から目に浮かぶようです。さらに行政は家族の資産を調べ上げるぞと相談者を合法的に脅せることになるでしょう。ましていわんや現在のみならず過去の被保護者およびその扶養義務者の保護期間中の資産・収入等についてまでも調査可能とする第29条に至っては文字通り絶句するしかない。そんなことをして一体何の意味があるのか理解に苦しむ。スティグマ以外の何者でもないですよ。

Afternoon Cafe 北海道で生活保護や支援を受けられずに亡くなった姉妹を思う

とにかくもうこういう悲劇を繰り返してはいけないんです。政府答弁によれば今回の改正は「特別な事例に対応するための変更である」としてますが、特殊事例に対処するため一般原則の方を改変するのは、立法政策としてあまりにも不細工。牛刀を以て鶏を割くと言う他はない。のみならず既存の福祉水準を不合理に後退させるという観点から違憲性の問題をも相当に孕んでくると思われます。確かに不正受給などけしからん受給者の問題は由々しきことなんでしょうが、その撲滅に血道をあげるあまり本当に必要な人が救われないという本末転倒などあってはならないことです。

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posted by かがみ at 03:44 | 法律関係

2013年11月10日

扶養義務の履行は受給要件?生活保護法と行政の論理。

長野市:生活保護申請「援助前提」…親族に書面配る− 毎日jp(毎日新聞)

はてブで流れてきたニュース。まだこういう事をやっているのかと呆れるばかりですが、典型的な水際作戦なパターンですね。親戚筋にこういう通知をバラまきますよって窓口で言われたら、世間体を慮って申請を諦める人も多いでしょう。職員の方も組織の論理でやっているから生活保護法違反の有無に自覚的な人間というのは思ったほどいないんでしょうね。

生活保護は法定受託事務であり、本来的には全国一律の対応が求められるべきなんですが、現実にはこういう類いのわけのわからない有象無象のローカルルールが、全国津々浦々で色々ある。しかしながら法律による行政が基本原理ですから、生活保護法は全てのローカルルールに優先します。なるほど生活保護法4条には「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」とあります。けれども、ここでいう「扶養義務」とは「社会通念上それらの者にふさわしいと認められる程度の生活を損なわない限度」であり、要は「もしも余裕があったら扶養してあげてね(´・ω・`)」というその程度のレベル。そして「優先して行われる」というのは、いわゆる収入認定であって、その限度で受給額が縮減されるという意味にすぎません。本件文書のように、それ以上の義務の履行が受給要件となるかの如く誤認させる役所の言動は、生活保護法上の申請権を侵害する疑いがあると言わざるを得ないでしょう※。

※平成15年3月4日厚生労働省社会・援護局関係主管課長会議「法律上認められた保護の申請権を侵害しないことは言うまでもなく、侵害していると疑われるような行為自体も厳に慎まれたい。」

役所は常に市民の味方とは限りませんから。もし似たような事例で困っている方がいたら、泣き寝入りなんかせず、すぐにしかるべき支援団体に相談する事を勧めます。

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巷では一部の受給者の言動がクローズアップされて反感を買ったりもしていますけど、こういう時代、生活保護受給を怠惰なんて責める資格は誰にも無いと思うんですよ。資本主義社会である以上、結局誰かがババを引くしか無いんです。そしてグローバル経済下における要素価格均等化の濁流が齎す帰結は、あらゆる分野における「お前の代わりなど掃いて捨てるほどいる」状態の現出です。ロールズが言うところの道徳的恣意の理論を持ち出すまでもなく、格差の帰結を独り個人の自己責任と片付けるほど単純な時代ではないでしょう。ババなんか誰も抜きたくないですよ。けど誰もが明日は我が身です。大きな顔して受給者を叩いているあなたがそっち側にいられるのは本当に「たまたま」なんですからね。

生活保護法

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posted by かがみ at 01:46 | 法律関係

2013年09月05日

婚外子の相続差別違憲判断について。別に最高裁は不倫を奨励しているわけじゃないですよ?

「婚外子」相続差別 最高裁が違憲判断 NHKニュース

たまには判例評釈もやりたいと思います。本件は最高裁が下した戦後9番目の法令違憲判断となります。

本件で問題となっている民法900条4号っていうのを簡単に説明しておくと、たとえば、夫Aと妻Bに子CとDという家族がいるとする。ところが他方でAはE女と不倫しててその間にFっていう認知した子どもがいた。こういう状況でAが遺産を2000万円遺して他界しました。さあ相続分はどうなるかという話です。現行民法を適用すると配偶者のBが半分の1000万円とります。Eは婚姻関係がないから相続分はゼロです。そしてCとDがそれぞれ5分の2の400万円でFは5分の1の200万円。

この扱いじゃFが可哀想じゃないかということで、今までも憲法14条の平等原則違反としてさんざん争われてきた問題でして、今回ついにカタがついたという格好になります。民法900条4号の合憲性と言えば憲法や民法の教科書では重要論点扱いなので法学部の皆さんはしっかり押さえましょうね(笑)

本件決定の原文はこちら。昨日出た判例なのにもう掲載してたのはちょっとびっくりしました。

平成24年(ク)第984号,第985号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成25年9月4日 大法廷決定

法制審議会や諸外国の立法の動向に加え、パラサイトシングルやできちゃった婚に言及したりと、最高裁にしてはなかなかアグレッシブな論旨を展開しています。

平等原則違反についてはいわゆる三段階審査基準が通説的理解であり、相続制度っていうのは人種や性別と異なり単なる財産権なので一番緩い「合理性の基準」が適用される。これまで最高裁は法律婚主義の建前があるからそれはそれで合理的な区別だ、半分あるだけまだマシだろって言ってたんですね。一方で、非嫡出子っていうのは「個人的努力では変えられない立場」という属性でもあります。今回の決定論旨を全体的に眺めると、そのあたりも加味して「厳格な合理性の基準」に近い水準で審査を行っているという印象はありますね。

子供には自分が「婚外子」になるかどうかなんて選びようがないわけで。 - 脱社畜ブログ

最高裁が不倫を奨励するのか、とかそういった批判もありますが、不倫は普通に離婚事由だし不倫相手は本妻から賠償請求される可能性も当然ある。本件はあくまで相続の話。この判決により法律婚主義の家族制度が揺らぐとか、そういう大げさな話ではないからですからね。どのみちこの規定の削除はもう時間の問題だったから、最高裁も動きやすかったんでしょうね。

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posted by かがみ at 04:24 | 法律関係

2013年07月28日

生活保護法の治安維持対策としての意義

生活保護費引き下げで提訴へ NHKニュース

これはまあ、やることに意義があるというか、訴訟としては残念ながら無理筋でしょう。この手のリーディングケースである朝日訴訟以来、憲法25条の謳う生存権は抽象的権利の域を脱しておらず、「健康で文化的な最低限度の生活」は政策判断を含む多義的な概念であるというのが今に至る判例の流れなので、真っ向からがっつり憲法訴訟をやるとなると現状どうしても分が悪いと言わざるを得ない。

申請の様式行為化や不正受給の厳罰化などを盛り込んだ生活保護改正案は、政局の妙な流れのドサクサで廃案になりましたが、保護費切り下げは行政レベルの政策課題なので予定通り粛々と行われるわけです。インタゲやるよとか言いながら、生保はこれからだんだん下げますよというのが何とも意味不明です。

「生活保護は恥」というケチ臭い価値観が、「見えない貧困」を生み出す - ihayato.書店

ネット上で多数の「正義の味方」がナマポ叩きに熱狂するという絵図はもはや常軌を逸している感があるが、福祉制度というのは裏面として治安維持対策を持っていますからね。国家の治安維持というのは、社会契約としての公共の福祉を維持する為の政府の最低限の任務であることはいうまでもない。その際たるは刑法の執行ですが、刑務所に放り込めるのは犯罪が起きた後ですよ。司法権というのは事件があった後にしか発動しない。けど何かあってからじゃ遅いだろ。福祉や教育といった制度は犯罪が起きにくい社会を作るという意味では真っ当な治安維持対策。表層的な正義を語る前に、その辺りをもっと考えるべきなんでしょうけどね。


タグ:福祉 憲法
posted by かがみ at 02:34 | 法律関係