2015年05月03日

社会保障領域における憲法学の可能性

久しぶりの更新。憲法記念日ですので、最近関心のある制度後退原則についていくらか述べておきたいと思いまして。

制度後退禁止原則とは何か

生存権における制度後退禁止原則というのは、各種社会保障制度が当たり前のように年々切り下がっていく昨今においては、なかなか魅力的な議論ではあります。この制度後退禁止原則というのは定義自体も論者によって微妙に異なってくるんですが、あえて最大公約数的にいえば社会保障給付水準を切り下げることは原則としては許されない、少なくとも合理的な根拠を要するという憲法原則をいいます。

生存権の法的性格論争の限界性

生存権を謳った日本国憲法25条については周知の通りその法的性格について従来からプログラム規定説と抽象的権利説と具体的権利説が三つ巴で凌ぎを削ってきた歴史がありますが、よしんばこの中で1番権利性を強く打ち出している具体的権利説に立ったとしてもせいぜい立法不作為確認訴訟が成立するくらいで「政府はこういう法律を作れ」っていうドラスティックな立法義務付け訴訟が可能というわけでもないんですよね。

憲法は攻撃呪文ではなく防御魔法

要するに憲法は本質的には攻撃呪文ではなく防御魔法なんですよ。例えば表現の自由のように「政府は何々をするな」という妨害排除請求権であれば「禁止されたことをしたかしないか」という白黒の問題になりますので裁判所は普通に公共の福祉からくる必要最小限度の規制かを違憲審査すればいい。

ところが、まさに生存権がそうであるように「政府は何々をしろ」という立法請求権については「何をどうするか」の問題があるわけです。

そこには色々な要素を考慮した専門的技術的判断を要する。なのでこれをよく成しうるのは誰かというと、憲法の教科書によく書かれている例の「代表機関である立法府あるいは専門技術性に優れた行政府の判断が尊重され、非民主的でかつ手続き的制約のある裁判所としては緩やかな違憲審査とならざるを得ない」という説明になるわけです。長らく学会を支配したいわゆる二重の基準論というのは本質的にはそういうことなんです。なので具体的権利説をあたかも真理の託宣のごとく述べたところで、トリクルダウンとかいう美名のもとで年々切り下がる福祉の水準と貧困の現実に抗う処方箋となるわけでもなく、つまるところそれは畢竟、正義の代弁者気取りの自己満足にしかならないのです。

憲法学サイドにとってもある意味でチャンス

こういう状況で学会の主流たる抽象的権利説に立ちつつ、その妙味を活かしてより実効性のある議論を提供する意図で出てきたのが、かかる制度後退禁止原則です。もちろん難点もありますよ。既得権益擁護の理論に堕しはしないか、或いは健康的文化的な最低限を下回る切り下げと下回らない切り下げを区別すべきか、そもそもそれらは区別できるものなのか云々・・・しかしながら、少なくとも生存権の法的性格などという華々しいかもしれないけど非生産的な論争に終始するよりははるかにプラクティカルな議論になることは間違いない。何と言っても社会保障の問題を公共政策論ではなく、より強く権利保護の原理が作動する憲法論の領域に転移できるのは抗し難い魅力です。戦後70年あまり、よくわからない神学論争ばっかりに虚しく明け暮れてきた憲法学がもっと普通の人の暮らしに寄り添った学問になれる一つのチャンスなのではないでしょうか。

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posted by かがみ at 23:54 | 法律関係

2015年02月26日

健康保健法の被扶養者要件は面倒くさい〜奥様のパート収入が108334円を超えた時

最近、色々相談を受けて調べたり考えりしたことのメモです。健康保険の話。

健康保険法において被扶養者の収入要件(60歳未満)はその人の年間収入見込みが130万円未満で、かつ、その家族の収入が月額108,334円未満であることです。

税扶養は過去1年の収入が基準になるが、社会保険扶養は将来の収入見込みが基準となるんです。これがなかなか曲者で、例えば極論すれば1月に奥さんが退職して200万円の退職金が入った場合、その時点で年収130万円をオーバーしているが、2月が収入0円であれば、2月を基準にした向う1年の見込み収入は0円なので2月の時点で扶養認定は可能ということなんでしょう。

1番厄介なのは奥さんのパート収入が108334円を超えた場合。大抵の組合健保では概ね3ヶ月続けて108334円を超えなければ、扶養に留まるという扱いにはなっていますが、奥さんのパート先が繁忙期で、たまたま3ヶ月続けて108334円をオーバーするというケースは割とある話でしょう。

これをご主人が正直に申告すれば、3ヶ月の初日に遡り健保の扶養が取り消され、その間の療養給付は全て返還となる。一方で、国保には3か月遡って保険料納付が義務付けられる。それで健保に返還した医療給付が療養費として国保から補填されるかというと、これは填補される「かもしれない」。行政裁量なんです。つまり填補されない可能性も理論上あるわけです。

被扶養者資格が遡及して取り消されたI療養費支給申請の遡及 |【損しない道】給与担当者の会社では言えないホントの話とリスク回避技術

これはいかにも理不尽でしょう。だから実際は黙ってやり過ごそう、とか、今回は見なかったことにしよう、など、そういう極めてグレーな対応に何となく着地してしまうケースが実際多いのではないかと思われますし、何より奥さんがそういう可能性を恐れてあまり働きたがらない、というのは社会的な損失でもあります。

健康保険法は一体なんで被扶養者の要件論として将来に向かっての見込み収入額とか、そういう面倒くさい、というか不確定要素の強いものを取り込んでいるんでしょうか?税扶養と同様、年額ベースでやった方が、法体系としてもシンプルだし、わかりやすい気がしますけどね。

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posted by かがみ at 01:51 | 法律関係

2014年12月31日

生活保護費のプリペイドカード支給の功罪を考える

大阪市の「プリペイドカードによる生活保護費支給」は官製貧困ビジネス | ハーバービジネスオンライン

大阪市の生活保護のアレ。背後には三井住友、富士通総研、VISA、NTTデータが絡む大規模なプロジェクトなのでどうしても利権的な匂いは確かにしますけど、プリペイドカードによる支出管理は家計ツール的に考えれば決して悪いものじゃない。ただ、残高が残った場合の処理がどうにも気になるわけです。
生活保護法上、まとまった貯金はご法度。違法というわけではないが、受給が打ち切りになる可能性がある。プリペイド残高が翌月に繰り越せるとして、それがまとまった残高になった場合どうなるんだろうか?それは貯金と見做されることになるのではないか?

そういう疑問があったりして、その辺りも明確にしないとね、受給者側としては使い切らなきゃっていう意識になってしまうだろうから、家計管理の観点からは帰って過剰な浪費を促進してしまう可能性もある。関係各位への利益誘導が目的であれば、まさにそれが狙いなのかもしれませんが。どうも全国展開を見据えたモデルケースとしての位置づけもあるみたいだし、これは一自治体の問題に収斂されるものではない気がします。

そういうことを考えた師走でした。後半はまともに更新しなかったけど、来年こそはね、時局的なものから、他愛のない日々の所感に至るまで、色々なものを発信出来たらな、と。そう思ってます。お立ち寄りの際はどうかご愛顧の程、宜しくお願いしますね(#^.^#) 



posted by かがみ at 23:59 | 法律関係

2014年12月17日

携帯電話の2年縛り条項につき最高裁が適法判断

携帯解約金「適法」確定 各社の2年契約プラン - 産経ニュース

上告不受理決定の論旨は記事中からは明らかではないが、途中解約で9500円の解約金が発生するいわゆる2年縛り条項は、損害賠償の予定条項と理解すべきなんでしょうか。

2年契約自体はもとより契約自由の原則から不当とは言えず、その途中解約は契約違反ということになるが、その際発生するキャリア側の損害額をいちいち個別算定する煩瑣を避けるために予め9500円という定額を定めているということになる。これを損害賠償の予定という。

損害賠償の予定自体は民法に規定されており、それ自体としては不当なものではない。問題は9500円という金額が、消費者保護の観点から公序良俗に反するかどうかであり、最高裁の判断としては必ずしもそうはいえまいということなんでしょうか。

果たしてキャリア側の2年契約に対する皮算用が適切なのか、格安スマホが出回るご時世においてはやはり立場は別れるでしょう。ただ、少なくとも、やっぱりいつの間にか2年契約が自動更新されるのは生活実感としては理不尽なわけでして、契約更新に関する周知はもう少しして頂きたい所ではあります。寝た子は起こしたくはないんでしょうけどね。

星も凍てつく寒夜。皆様、どうかご自愛を。

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posted by かがみ at 01:22 | 法律関係

2014年11月17日

公立女子大違憲訴訟

「公立女子大行きたい」男性、出願不受理は違憲と提訴へ:朝日新聞デジタル

公立女子大は憲法の謳う平等原則に反しないか、という争点を問う初の憲法訴訟らしいですが、これとほぼ全く同じケースが、かつて平成15年の司法試験論文試験憲法第1問で出されてまして、あの頃はなんと荒唐無稽な、とも思ったものですが、いやいや何とも、現実は試験問題より奇なり、と言ったところでしょうか。福岡女子大学って思いっきり地元なんですよ。福女の他にも、お茶大とかね、あと奈良女子大とか普通にあるんですけど、こういった国公立の女子大の正当性を憲法上、論証するのは実は結構難しい。昔は積極的格差是正措置(アファーマティブアクション)の文脈で、女子に対する高等教育の門戸を広げるため、という目的は正当性を帯びていたんでしょうが、いまや少子化大学乱立時代。そういう目的はかなり説得性を失ってきている。かと言って良妻賢母の育成とか、そういう時代錯誤な目的を前面に出して迎え撃つのは、少なくとも建前論としては無理な話でしょう。

この辺り当時、辰巳法律研究所の加藤晋介先生が詳細に解説した講演会テープが部屋のどっかにあるはずなんですが、探しても出てこなかったのが残念なところです。

とにかく、何れにせよ公立女子大の正当性というのは、実は憲法論としてはわりと無理筋。ただ、現にある大学を廃止したり、いきなり共学化というのも、また難しいでしょう。そこは合理的裁量論の領域に落とし込んで、合憲とするのが大人の判断なのかなとも思います。提訴した方は相当に勇者だとは思いますが、あまりドラスティックな判断は期待できないし、また、しない方がいい事案だと思われます。
posted by かがみ at 23:22 | 法律関係