2015年12月10日

マイナンバーを他人に知られてはいけない理由が説明されない不思議

おそらくもう、ほぼ全国すべての世帯にマイナンバーが行き渡ったのではあろうかと思われますが、送付方法として世帯一括と言うのはどうなの?と思うところではあります。たまたま受け取った人が世帯全員のマイナンバーを見ることができる立場にあるというのは、いくら同一世帯内が提供の求め制限の例外(15条)とはいえ、構成員の仲は北極よりも冷え切っている御家庭だってあるでしょうに、いささかマイナンバーの提供禁止を金科玉条のごとく喧伝している割には片手落ち感はあると言えるでしょう。

そういうわけで、もう誰でも知っているかと思いますが、番号法はマイナンバーを他人に提供(公開)することを法所定に場合に限局し、原則として禁じているわけです(19条)。内閣官房や特定個人情報保護委員会などの当局を初めいたるところでこのルールはお題目のごとく唱えられている。ところが、その「理由」、いわゆる制度趣旨の部分については不思議とまともな説明がされていない。例えば内閣官房の「マイナンバーQ&A(一般向け) 」なるPDF資料には次のように書かれています。

“Q6 マイナンバーは誰にでも提供してもいいのですか。それとも人に見られてもいけない番号ですか。”

“A6 マイナンバーは社会保障、税、災害対策の分野の手続のために行政機関等に提供 する場合を除き、むやみに他人に見せることはできません。これらの手続のためにマイナンバーを提供することができる具体的な提供先は、税務署、地方公共団体、 ハローワーク、年金事務所、健康保険組合、勤務先、金融機関などが考えられます。

マイナンバーが見られたり、漏れたりしたとしても、マイナンバーだけで手続はできませんが、個人のブログなどでご自身のマイナンバーを公表するといった ことは法律違反になる可能性もあり、絶対にしないでください。



「マイナンバーだけで手続きはできません」と言いつつ、特に理由を述べずに「絶対にしないでください」などとかなり強気な文章です。こんな風に頭ごなしにいわれて納得できる人がどれだけいるんでしょうかね?こんな子供だましみたいなペーパーはまだ許せるとしても、番号法の解説として現状最も詳細な資料の一つであろう「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律【逐条解説】」ですら、まともな記述が見当たらないというのはもう何か奇怪という印象すら受けます。

なので制度趣旨をいろいろ推し量ってみたんですが、おそらく、言いたくない、少なくとも現時点では言い辛い、というのがあるのかな?という気はしました。まず、一つは特定個人情報のジャンク市場みたいなものの形成を防止するというのがあるでしょう。個人情報売買の実務(?)に通暁してるわけではないのでかなり適当な推測ですけど、基本4情報と完全に紐付いた形での情報流出は難しくとも、不完全な形での流出というのはわりとハードルが低いのかもしれません。そういう複数のルートから入手した不完全な個人情報を名寄せしていけば、塵も積もればダイヤモンドというか、それなりに価値の高い個人情報が形成されていく。そういう名寄せが今後マイナンバーで100%正確に出来ることになる。なのでマイナンバーと氏名くらいでは何もできないかもしれないが、そういうジャンクなものもとりあえず10羽一絡げでやり取りされる市場みたいなものが形成される事態を可及的に防ぐためというのが理由の一つの気がします。ただ、こういうことをバカ正直に言ってしまうと、各省庁からそういうジャンク情報が日常茶飯事で流出してるみたいな印象を与える可能性があるから、なかなか言いづらいのではないかという気はしました。

上記の点については前の記事でも少し言及したところではありますが、別にもう一つ思いついたのが、今でも横行している免許証偽造などによるなりすましを長期的視点で可及的に防止する為、今の時点から個人番号提供禁止規制を施しているという見方。現行の免許証番号や被保険者番号は本人確認の際、普通に控えられているので、これが流出した場合、基本4情報と番号が正しく紐付いた偽造免許証などが作成できるわけですよね。免許証番号や被保険者番号をいまさら提供禁止とすることは実際問題難しいので、マイナンバーを提供禁止とした上で個人番号カードを将来的に免許証や保険証と統合してワンカード化することでこういった偽造を可及的に防止していく。そういう意図も、或いはあるのかもしれません。ただロードマップがまだまるで見えていないので、やはりこれも現状正面きっていうことは難しいということなのかもしれません。

タグ:法律 考察
posted by かがみ at 23:34 | 法律関係

2015年12月01日

マイナンバーを他人に知られてはいけない本当の理由

先日、大阪府内の焼き肉店で客のマイナンバーに、肉にちなんだ「1129(いいにく)」とか「2929(にくにく)」などといった4桁が含まれていた場合、焼き肉4人前無料提供などのサービスを始めたところ、内閣官房から駄目出し・・・というか自粛のお願いがあったという事件を覚えていますでしょうか?

法的に観るとこれはマイナンバー12桁全てではなく一部の開示もダメなのかという番号法の解釈の問題となります。番号法19条は自分のマイナンバーを法律所定の場合以外に他人に提供することを禁じていますが、マイナンバーの一部も繰り返し開示すればその全部を推測できる為、一部といえどもやはり番号法上、個人番号に該当し、従って、19条の提供禁止規制に抵触するいうのが内閣官房の立場のようです。

しかし、この件で問題なのは、この焼肉屋が事前に内閣官房に問い合わせたところ、その時点では一部開示を想定してなかったのか「いいとも悪いとも言えない」という回答を出しているということです。これは「黙認する」という趣旨に取られても仕方のないことではないでしょう。行政法上の大原則の一つとして「行政機関の言動に従い行動した私人の信頼は法的に保護されるべきである」という禁反言則がありますが、この観点からいうと内閣官房の後出しジャンケン的自粛お願いは強制力を伴う処分的効果のないものといえども、やはりお粗末な対応と言わざるを得ないものがあるかと思いますね。

何が言いたいかというと、マイナンバーのシステム自体は割ときちんと制度設計されているとは思いますが、内閣官房をはじめとした当局対応はあまり上手とは思えないんですよね。なぜ提供禁止なのかという理由ひとつとってもきちんとした説明が不思議となされていない。提供禁止の理由を内閣官房コールセンターに問い合わせたら対応がしどろもどろだったみたいですし。自分のマイナンバーなんだからどうしようと勝手だろうと思う向きもあるでしょうが、おそらく提供禁止規制というのは要するに以下の理由によるものと思われます。

つまり、個人情報売買市場において取引される個人情報というのは複数の名簿から氏名や住所などをキーとして名寄せされたものなんですが、同姓同名は多いし転居で住所が異なるというケースもあるので100%正確な名寄せというのは難しい。ところが、マイナンバーをキーとすると100%正確な突合が可能となる。もちろん現時点でのマイナンバーに紐付いている情報は少ないですが、今後、民間活用により色々な個人情報とマイナンバーが紐付く可能性が高い為、こういった将来的に発生するリスクを踏まえ個人番号の提供を原則禁止とした。これがマイナンバーを他人に教えてはいけないという理由、提供禁止規制の立法趣旨だと思うんですよね(ようやくタイトル回収出来ました)。

確かに、こういうのは将来的な不確定なリスクというのは、現時点でははっきりと説明はし辛いでしょう。けど、最近耳にした凄い誤解で、マイナンバーは暗証番号のようなもので、役所で氏名と合わせて提示すれば簡単に個人情報が開示されるとかあったりしましたけど、ただむやみにダメだダメだ絶対他人みせてはダメだと、頭ごなしにいうだけでは、こういうひどい誤解を含めた社会不安を醸成するだけだと思うんですよ。

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タグ:法律 考察
posted by かがみ at 00:30 | 法律関係

2015年11月18日

自分の個人番号の公開は本当に処罰されることはないのか??

先日の大阪の焼肉屋のマイナンバーくじ事件は、内閣官房の後出しジャンケン的なところがあり焼肉屋さんには少し気の毒な感じはしますが、番号法の解釈論という点からみれば多少意義のある案件だったとも言えます。マイナンバーこと個人番号は4桁4桁4桁で構成される全12桁の番号ですが、その12桁全てのみならず、その一部の提示であっても、番号法上の提供規制や収集規制に抵触するというのが内閣官房の解釈ということなんでしょう。あくまで行政解釈なので訴訟案件になれば異なる判例がでる可能性はありますが・・・・それにしても、先方は事前確認をしてたにもかかわらず、騒ぎになってからやっぱりやめてと言い出す内閣官房の対応はお粗末と言わざるをえないでしょう。

ところで、番号法は法令所定の事項以外で、自身のものといえども個人番号を提供をしてならないと定めています(法19条)。ただし、これについてはいまのところ直接的な罰則はありません。が、それをもっていかなる場合も処罰対象になることはないと即断するのはやや危険でしょう。

番号法の適正な運用を図るため設置された特定個人情報保護委員会という機関がありまして、番号法違反について、勧告や措置命令、中止命令を出す権限を持っていますが、この特定個人情報保護委員会の命令違反については罰則対象となります(法51条・73条)。

つまり、自身の個人番号の公開行為が委員会の措置命令、中止命令違反となれば、処罰対象となることはありえるとも読めるわけです。先日、マイナンバーをブログで公開した件で特定個人情報保護委員会からみだりにそういうことをしないようにとの「注意喚起」がされたのは記憶に新しいですが、要するに何だかんだと結構、神経を尖らせているんだと思うんですよね。マイナンバーは現時点ではそこまで価値の高い情報は紐付いてはいませんが、将来の民間活用も視野に入れると、いろいろなセンシティブな情報が紐付いてくることが十分考えられます。くれぐれも軽挙妄動は慎まれた方が良いかと思います。

週刊東洋経済 2015年 10/03号[雑誌]

東洋経済新報社 (2015-09-28)

タグ:法律
posted by かがみ at 23:17 | 法律関係

2015年11月09日

マイナンバーで離婚が増えるとかいう噂の真偽

「マイナンバー導入で離婚が増える」などとそういうタイトルの記事を最近よく目にします。曰く、配偶者のマイナポータルにこっそりログインすることで相手の思わぬ所得情報などが詳らかとなり、以って夫婦間に疑心暗鬼が生じて亀裂が入る等々云々・・・成程知らぬが仏とはよく言ったもので、もしそんなことになればこれは由々しき事態でしょう。けど、マイナポータルでそんなことが本当にできるのか?という疑問もあるわけです。

どうも世間では、マイナポータルというもので自分の所得情報や保険料納付情報、果てはクレジット利用履歴などが総覧できるものらしいと、そのように理解されている向きがあるみたいです。確かに内閣官房のFAQなど見ますと、マイナポータルの予定されている機能として「行政機関がマイナンバー(個人番号)の付いた自分の情報をいつ、どことやりとりしたのか確認できるほか、行政機関が保有する自分に関する情報や行政機関から自分に対しての必要なお知らせ情報等を自宅のパソコン等から確認できるものとして整備します。例えば、各種社会保険料の支払金額や確定申告等を行う際に参考となる情報の入手等が行えるようになる予定です。 また、引越しなどの際の官民横断的な手続のワンストップ化や納税などの決済をキャッシュレスで電子的に行うサービスも検討しています。」と書かれており、上記のような理解もこの「自分に関する情報・・・を自宅のパソコン等から確認」辺りから生じているものと思われます。

しかし、仮にそのように理解すると、全ての特定個人情報がマイナポータルに実質的に一元化される事態となりますが、これは番号法の原則とする分散管理方式と真っ向から衝突することになります。

番号法はリスクヘッジの方法として分散管理方式を採用してるんです。よくある誤解で、マイナンバーにひも付けられた特定個人情報は専用のサーバーで一元的に管理される・・などというものがありますけどそんなことできませんからね?そのサーバーがハッキングされてしまえば国家として普通におしまいですから。特定個人情報は個人番号導入後も従来通り所管の各省庁で個別に管理され、情報ネットワークシステムを媒介とする情報連携による特定個人情報は相互に参照されるしくみとなっています。そして、マイナポータルの接続先は、その情報提供ネットワークシステムとなってますが、情報提供ネットワークシステムというのは情報連携の符号変換を行うだけで、そこに特定個人情報自体があるわけではない。よって、マイナポータルで所得から何から閲覧可能というシステム構築は法理的にもシステム上も不可能と言わざるをえない。

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(内閣官房情報連携基盤技術ワーキンググループ中間報告の図解より)

いやしかし内閣府のFAQには「自分に関する情報・・・を自宅のパソコン等から確認」としっかり書いてあるではないか・・・という疑問も尤もです。これはなんなんでしょうか?

実際にこういうのは条文を見てみましょうね。マイナポータルこと情報提供等記録開示システムを規定する番号法附則6条はつぎのような書き方になっています。

政府は、情報提供等記録開示システムの設置後、適時に、国民の利便性の向上を図る観点から、民間における活用を視野に入れて、情報提供等記録開示システムを利用して次に掲げる手続又は行為を行うこと及び当該手続又は行為を行うために現に情報提供等記録開示システムに電気通信回線で接続した電子計算機を使用する者が当該手続又は行為を行うべき者であることを確認するための措置を当該手続又は行為に応じて簡易なものとすることについて検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

一  法律又は条例の規定による個人情報の開示に関する手続(前項に規定するものを除く。)
二  個人番号利用事務実施者が、本人に対し、個人番号利用事務に関して本人が希望し、又は本人の利益になると認められる情報を提供すること。
三  同一の事項が記載された複数の書面を一又は複数の個人番号利用事務実施者に提出すべき場合において、一の書面への記載事項が他の書面に複写され、かつ、これらの書面があらかじめ選択された一又は複数の個人番号利用事務実施者に対し一の手続により提出されること。


この書き方からして、私見ですが、おそらく「自分に関する情報・・・を自宅のパソコン等から確認」というのは「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」など、現行法でも認められている自己情報開示請求をマイナポータル上で可能にするというものになるかと思われます。まだ制度設計を落とし込めてないのでこういうぼんやりした書き方になっているものと思われます。妙に情報に右往左往されないためにも実際に条文にあたってみるのも大事なことですね。

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タグ:法律 考察
posted by かがみ at 00:55 | 法律関係

2015年11月01日

マイナンバー立法担当者による解説書は読んでおいた方がいい

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番号法の立法担当者自身によるマイナンバー解説書。著者の水町雅子さんは弁護士で前内閣官房社会保障担当室参事。一問一答とその解説という形式で読みやすいです。ただし刊行が2014年3月とやや古く最近の動向はフォローされていない点は注意。同じ著者の手による類書に『やさしい番号法入門』。

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マイナンバーについてはもうそろそも通知カードが届いた方も多いかと思いますが、Web上や週刊誌等を見れば毎日様々な情報が飛び交っており、多分に誤解や憶測に基づくものも混在しているように見受けられます。曰く「マイナンバーで会社に所得情報が知られて副業がバレる」「マイナンバーで家族に所得情報が知られて離婚が増える」「個人がブログやSNSでマイナンバーを公開しても罰せられることはない」「マイナポータルにログインさえすれば個人情報が全て閲覧可能」等々。全てそう一概に決め付けられないものも多いように思えます。

妙な情報に引っかからないためにも、一度、番号法の条文を参照しながら制度設計者による真っ当な解説を読むことも必要でしょう。
タグ:法律 くらし
posted by かがみ at 15:04 | 法律関係