2013年09月02日

宮崎駿監督「風立ちぬ」を最後に引退へ

前回の俺妹の文章がどういうわけか割と好評で、なんとはてなブックマークのホッテントリにも上がるという光栄に浴してしまいました。あそこに自分のブログの名前が乗るっていうのはなんだか不思議な気分ですね。ブクマして頂いた方大感謝です。ああいう文章が毎回書ければいいんだけどね。なかなか難しいです。

そういうわけで、今回は普通にニュースに適当にコメントするいつもの感じで。

朝日新聞デジタル:宮崎駿監督が引退へ アニメ「風立ちぬ」を最後に - カルチャー

今までも繰り返し、これを最後に引退宣言→いつの間にか復帰のパターンを繰り返していた気もするけど・・・・今回は会社としての発表だし割とマジっぽい感じですね。今後も短編小品みたいなのは作るのかもしれないんだろうけどね。「風立ちぬ」は色々言われているけど、その終わらせ方には美しさを感じた。「その後」を敢えて具体的に描かないことで最後に凛とした叙情を残したまま銀幕を降ろせたんじゃないかな。終わりよければ何とやらではないですが、良い映画だったと思いますよ。

もう夏も終わりですね。人生は映画とは違って嫌でも明日はやって来る。終わりなき日常です。綺麗な思い出だけを数珠のように繋げてノスタルジーに浸るのもいいでしょうけど、それじゃ世界は何も変わらないしお姫様は相変わらず籠の鳥のままですよ。凡人たる我々は無限に乱反射する現実の光彩の中で今できる事を一つひとつやっていくしかないんでしょうけどね。それでもまあ、生きねば。なんてね。

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タグ:アニメ 人生
posted by かがみ at 02:29 | 文化論

2013年08月27日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の結末について。「気持ち悪い」というハッピーエンド。

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」

ニコニコチャンネル:アニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」第14話〜第16話

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』最終回(14話〜16話)感想 いい最終回だった!キャットファイト凄すぎwww:萌えオタニュース速報

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」。いまでこそ長ったらしいタイトルのラノベなど珍しくも何ともないですが、当時は本当に斬新だった。5年前の夏の日、新刊棚のなかでひときわ異彩を放つ原作第1巻を中身もロクに見もせずに手に取って、そのままレジに直行したあの時の購入衝動はよく憶えている。見なくてもわかる。これは絶対面白い、と。そして実際、読み終えた瞬間にアニメ化を確信した。以来の長い付き合いなので今回の完結は実に感慨深いものがあります。

架空の作品世界といえどもエントロピー増大則からは逃げ難い。物語は続けば続く程、作品世界内のエントロピーは増大する。増える登場人物、積み重ねられた設定、交錯する伏線・・・アーキテクチャの全てを矛盾させること無く整合的に収斂させていこうという努力をすればする程、結末は虚しく陳腐なものに成り果てる。まどか☆マギカの脚本を務めた虚淵玄が「Fate/Zero」のあとがきで語っているように「故に、物語にハッピーエンドをもたらすという行為は条理をねじ曲げ、黒を白と言い張って、宇宙の法則に逆行する途方もない力を要求されるのだ」。そしてそれは「俺妹」においても残念ながら例外ではなかった。

『俺の妹はこんなに可愛いわけがない』は恋愛を描ききれなかった - シロクマの屑籠

3巻あたりまでが客観的に見ても傑作なのは間違いない。確かに深夜アニメやエロゲをあそこまで手放しで肯定してしまうのはどうかという意見も無くはないでしょうが、少なくとも長らく冷戦状態にあった兄と妹が家族の絆を取り戻していくという全体を貫く主旋律自体は至極健全で穏やかなものであり、一風変わったホームドラマだと言っても決しておかしくはない。インセストタブーの問題は後景に仄かされる程度にとどめられ決して全面に出てくることはなかった。桐乃ちゃんが留学したあたりで終わっておけば、その問題に深く言及する事はなく「不器用な兄妹が不器用な方法で絆をとり戻す話」として作品を綺麗に締めくくることができたはずです。

ところが、世間はそれを許さなかった。おきまりのメディアミックスに止まらず、様々な企業ともコラボレーションしたし、地元の千葉市市長からも持ち上げられる一方、熱心な信者がヒロイン毎にセクト化し、誰エンドかを巡る原作者脅迫騒動は裁判にまで発展した。その結果、物語を整合的に完結させる困難性は巻を重ねるごとに増大していった。正直な話、10巻あたりの時点では結末にそれほどの期待を持っていませんでした。

ところがどっこい。伏見さん、最後にひと足掻きしたね。11巻で壮大な助走をつけた上で、今までかろうじて後景に留めておいたインセスト・タブーの問題を完全に前面に打ち出してきた。あらゆる方向から批判を浴びる覚悟で明確な結末を描きにきた。まあぶっちゃけその過程というか様相は普通にキモいんですけどね?京介も桐乃ちゃんも。正視できない程キモすぎる。そしてその気持ち悪い行動の為に払った代償はあまりにも大きかった。誰がどう考えてもおかしいですよあんなの。

でもね。最終巻の主題はまさにこの「気持ち悪いって何?」という事だと思うんですよ。だって気持ち悪くない恋愛なんてあるんですか?人を好きになるってことは第三者的に見れば大なり小なりキモいでしょう?幸せであるという感情ほど個別的で主観的なものはないでしょうから。ニコニコでアニメ最終話を見てるとやっぱりというか「気持ち悪い」のコメントが大量乱舞していましたが、もしそう思う人が多いのなら、むしろ最終巻の主題の提示にはひとまず成功したということなんでしょうね。よくわからなかった人は原作を11巻あたりから読んでみればたぶんわかります。アニメでは省かれてしまった心理描写や因果関係が丁寧に描かれています。そして最終巻最後のエピローグは叙述トリックのような気がするんですよね。だとすればこれは少なくとも当人達にとってはハッピーエンドということになるんでしょうか。

とにかく伏見さんは逃げなかった。最終巻は見事でした。全年齢対象のラノベでできるギリギリの枠内で桐乃ちゃんの感情を描き切った。物語は最後の最後でエントロピーを瞬間的に凌駕した確かな輝きを見せてくれた。それで十分だと思います。

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posted by かがみ at 01:52 | 文化論

2013年08月15日

映画「風立ちぬ」で宮崎監督が提示した第3の選択肢


今日ようやく宮崎駿監督の「風立ちぬ」を観てきました。雑感のみ。

風立ちぬ メッセージ

ポニョ以来5年ぶり。堀辰雄氏の「風立ちぬ」原作は主人公とヒロインがサナトリウムに引っ込んじゃって静的な私小説的世界が延々と繰り広げられるんだけど、映画の方は、全く別物になっている。ヒロインの名前やモチーフなど堀氏の別作「菜穂子」からの影響も持ち込みつつ、宮崎流プロジェクトX的「ものづくり」の物語が動的に展開される。ジブリ映画だからって子ども連れて行こうと思っている人は注意した方がいいですよ。キスシーンもやたら多いし男女のナニを暗示するシーンもあるし、あんまり家族で見る映画じゃないかな。

緻密なメカニック描写と美しい日本的田園風景の両極性を高い次元で統合した作画は素晴らしい。久石譲氏の音楽も物語に儚い余韻を添えてきます。中盤に絡んでくる謎のドイツ人カストルプさんはひょっとしてリヒャルト・ゾルゲってことなのかな?そう読んだ方が物語に深みが出て面白いですね。あのピアノシーンが一番の個人的名場面でしたけど。

映画『風立ちぬ』のヒロインが「菜穂子」である理由 | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

『風立ちぬ』 (内田樹の研究室)

映画『風立ちぬ』感想 - 琥珀色の戯言

『風立ちぬ』を見て驚いたこと - sombrero-records.note

「風立ちぬ」感想:仕事に生きるということ - 脱社畜ブログ

監督は意図していないんだろうけれど、ゼロ年代のフィルターを通してみると、病弱ヒロインの無条件的承認というのはかなりエロゲ的です。ひょっとして菜穂子さんは今までのジブリ映画史上で一番、深夜アニメ視聴層の琴線に触れてきたんじゃないかな?

けれど普通のエロゲ(?)だと、選択肢は「1 戦闘機の設計なんかうっちゃって君とサナトリウムに引っ込んで暮らすよ」「2 残念だけど、仕事はほっぽり出せないから離ればなれになるしかない・・・・」の2択しか有り得ないと思うんですよね。ここで「3 俺は戦闘機の設計を続けるけど、君とも離れたくない。だから命を削ってそばにいろ」という、えらく身勝手な選択肢を提示して、それを何の葛藤も見せずに主人公に選ばせてしまうのが宮崎さんの凄いところです。今回のテーマは「矛盾」らしいですが、多分、万人から祝福されるような綺麗な結末にしようとはハナから思っていないんでしょうね。一種の決断主義です。今作で主人公堀越二郎の声を務めた庵野さんが、昔、対談で「宮さんの最近の作品は「全裸の振りして、お前、パンツ履いてるじゃないか!」という感じが、もうキライでキライで。「その最後の一枚をお前は脱げよ!」というのがある」などと言ってましたが、そういった意味で今回の宮崎さんはかなり本気で裸踊りをしようとしたんじゃないかな。

菜穂子
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(2012-09-13)
posted by かがみ at 23:54 | 文化論

2013年06月07日

貞本版エヴァ完結。「逃げたっていいんだ」という貞本さんの世界観。

TVシリーズと同時にメディアミックス展開を開始して18年。遂に完結しましたね。

「貞本エヴァ」ついに完結! ヤングエース7月号発売(みんなのエヴァンゲリオン(ヱヴァ)ファン)

最後は変えてくるんだろうな、って気はしていましたが、ある意味で貞本氏らしい終わり方ですね。これも一つのエヴァの正統な終わり方だと思うんですよ。

例えば新約聖書にだって4つの福音書が並んでいるでしょう。福音書というのはイエスの言行に対する証言録のようなものでして、成立順としてはマルコが一番古く、その後に、後の文献が先の文献を参照するような形で、マタイ・ルカと続き、最後に有名な「ヨハネの福音書」が位置している。先行する3つは割と内容が近いので、3つ併せて「共観福音書」とか呼ばれています。ヨハネだけが別個独立した感があって、キリスト教の思想的な立場が比較的明確に打ち出されている。例えば共観福音書の方はイエスは「人の子」だと言っているのに対して、ヨハネの福音書はイエスを「神の子」だとはっきり明言している。いわば同一の出来事に対する4つの異なる証言があって、そのいずれも正典として新約聖書に取り込んでいるというわけです。

なので、結局漫画版というのは何だったのかというと、新約聖書になぞらえるとTV版・旧劇とともに共観福音書に相当する部分を構成する。個人的にはそういう感じで捉えてますね。

あと面白いことに、マタイとルカの参照元は先行するマルコの他とある文献があって、それは「Q資料」などと呼ばれているそうです。新劇Qのアスカの台詞と漫画版のシンジの行動がある点でリンクしていることなど思えば、これはこれで非常に興味深いところではあります。

ところで貞本版エヴァにはあの有名な「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」っていう台詞がないんですよね。あれは意図してやっているらしくてそこが庵野版との最大の相違を端的に表している。昔、「パラノ・エヴァンゲリオン」か何かの対談で読んだんですけど、貞本さんは逃げたっていいんだっていう前提がある。それでも人は生きていけるんだっていう。それがシンジの性格にも表れていたしああいう飄々としたエンドに繋がっているのかな、と。

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posted by かがみ at 20:50 | 文化論

2013年05月08日

「DAHLIA」のサウンドはもっと評価されるべき

X Japan『紅』を聴こう(異常な日々の異常な雑記)

当時のギターキッズの部屋には大体手垢まみれになった「Blue Blood」の楽譜が転がっていたわけですから、そういう意味では偉大な曲ですね。ただギターサウンド的には3rdのDAHLIAが好きでした。際限なく膨れ上がるアルバムの制作費をペイする為、完成した曲を片っ端からシングルカットして売りさばいたというかなりアレなエピソードを持つ同作ですが、サウンド面だけで言えばXJAPANの最高傑作と思う。このアルバムはHideちゃんがソロで色々実験した成果が反映されていて、当時最先端の機材だったワーミーペダルやらサスティナーやらを積極的に取り入れた面白い音がこれでもかというくらいいっぱい詰め込まれている。マスタリングの音質もずば抜けてて今聴いても音が全然古くさくない。歌詞と曲調はシリアスなのに右チャンネルからは人を食ったようなギター音が聞こえてくるという、あの妙なギャップは後期XJapanの一つの魅力だった。LASTLIVEの「紅」にしろ、そういったDAHLIA的な感じがかなり反映されているような気がします。

ゼロ年代に入ってから音楽が売れない売れないと言われる時代が今に至るまで続きますが、それはああいう風にギターで何か面白いことをやってやろうという人がでてこなかったことと決して無関係ではないでしょうね。来年はHideちゃん生誕50周年。

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posted by かがみ at 03:19 | 文化論