2013年08月27日

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の結末について。「気持ち悪い」というハッピーエンド。

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」

ニコニコチャンネル:アニメ「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。」第14話〜第16話

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』最終回(14話〜16話)感想 いい最終回だった!キャットファイト凄すぎwww:萌えオタニュース速報

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」。いまでこそ長ったらしいタイトルのラノベなど珍しくも何ともないですが、当時は本当に斬新だった。5年前の夏の日、新刊棚のなかでひときわ異彩を放つ原作第1巻を中身もロクに見もせずに手に取って、そのままレジに直行したあの時の購入衝動はよく憶えている。見なくてもわかる。これは絶対面白い、と。そして実際、読み終えた瞬間にアニメ化を確信した。以来の長い付き合いなので今回の完結は実に感慨深いものがあります。

架空の作品世界といえどもエントロピー増大則からは逃げ難い。物語は続けば続く程、作品世界内のエントロピーは増大する。増える登場人物、積み重ねられた設定、交錯する伏線・・・アーキテクチャの全てを矛盾させること無く整合的に収斂させていこうという努力をすればする程、結末は虚しく陳腐なものに成り果てる。まどか☆マギカの脚本を務めた虚淵玄が「Fate/Zero」のあとがきで語っているように「故に、物語にハッピーエンドをもたらすという行為は条理をねじ曲げ、黒を白と言い張って、宇宙の法則に逆行する途方もない力を要求されるのだ」。そしてそれは「俺妹」においても残念ながら例外ではなかった。

『俺の妹はこんなに可愛いわけがない』は恋愛を描ききれなかった - シロクマの屑籠

3巻あたりまでが客観的に見ても傑作なのは間違いない。確かに深夜アニメやエロゲをあそこまで手放しで肯定してしまうのはどうかという意見も無くはないでしょうが、少なくとも長らく冷戦状態にあった兄と妹が家族の絆を取り戻していくという全体を貫く主旋律自体は至極健全で穏やかなものであり、一風変わったホームドラマだと言っても決しておかしくはない。インセストタブーの問題は後景に仄かされる程度にとどめられ決して全面に出てくることはなかった。桐乃ちゃんが留学したあたりで終わっておけば、その問題に深く言及する事はなく「不器用な兄妹が不器用な方法で絆をとり戻す話」として作品を綺麗に締めくくることができたはずです。

ところが、世間はそれを許さなかった。おきまりのメディアミックスに止まらず、様々な企業ともコラボレーションしたし、地元の千葉市市長からも持ち上げられる一方、熱心な信者がヒロイン毎にセクト化し、誰エンドかを巡る原作者脅迫騒動は裁判にまで発展した。その結果、物語を整合的に完結させる困難性は巻を重ねるごとに増大していった。正直な話、10巻あたりの時点では結末にそれほどの期待を持っていませんでした。

ところがどっこい。伏見さん、最後にひと足掻きしたね。11巻で壮大な助走をつけた上で、今までかろうじて後景に留めておいたインセスト・タブーの問題を完全に前面に打ち出してきた。あらゆる方向から批判を浴びる覚悟で明確な結末を描きにきた。まあぶっちゃけその過程というか様相は普通にキモいんですけどね?京介も桐乃ちゃんも。正視できない程キモすぎる。そしてその気持ち悪い行動の為に払った代償はあまりにも大きかった。誰がどう考えてもおかしいですよあんなの。

でもね。最終巻の主題はまさにこの「気持ち悪いって何?」という事だと思うんですよ。だって気持ち悪くない恋愛なんてあるんですか?人を好きになるってことは第三者的に見れば大なり小なりキモいでしょう?幸せであるという感情ほど個別的で主観的なものはないでしょうから。ニコニコでアニメ最終話を見てるとやっぱりというか「気持ち悪い」のコメントが大量乱舞していましたが、もしそう思う人が多いのなら、むしろ最終巻の主題の提示にはひとまず成功したということなんでしょうね。よくわからなかった人は原作を11巻あたりから読んでみればたぶんわかります。アニメでは省かれてしまった心理描写や因果関係が丁寧に描かれています。そして最終巻最後のエピローグは叙述トリックのような気がするんですよね。だとすればこれは少なくとも当人達にとってはハッピーエンドということになるんでしょうか。

とにかく伏見さんは逃げなかった。最終巻は見事でした。全年齢対象のラノベでできるギリギリの枠内で桐乃ちゃんの感情を描き切った。物語は最後の最後でエントロピーを瞬間的に凌駕した確かな輝きを見せてくれた。それで十分だと思います。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない。 ハッピーエンド HDコンプ! BOX
バンダイナムコゲームス (2013-09-26)
売り上げランキング: 74


俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)
伏見 つかさ
アスキー・メディアワークス (2013-06-07)
売り上げランキング: 746


俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11) (電撃文庫)
伏見 つかさ
アスキー・メディアワークス (2012-09-07)
売り上げランキング: 3,489
posted by かがみ at 01:52 | 文化論