この感覚は曲がりなりにも法律家であれば当然でしょう。あれはフォーマットこそ現行憲法を前提にしているものの拠って立つ思想的基盤は全く異質。それは現行憲法の「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」に書き換えた点に端的に表れています。
「公共の福祉」とは何か(Die Zeit des Rechts)
「公共の福祉」の定義は現行憲法制定初期こそ百家争鳴の感があったものの、やがて「人権の矛盾衝突を調整する実質的公平の原理」という一元的内在制約説へと理解はほぼ収斂した。内在制約とはこれまた難解な言い回しですが、要は人権を制約できるのは人権自身であるということでして、国家が人権制約をなし得る根拠を「それが他人の人権を害する(した)場合」という他害原理に求めるものです。
これは天賦人権説および社会契約説という近代憲法理論を現行憲法典の条文解釈の平面上に投影した定義です。すなわち人権とは人が生まれながら享有する前国家的な権利であり、憲法典とは互いに人権を保全する為の相互協定的な社会契約である。かかる社会契約の産物である国家とは法理論的にはどこまでも社会契約の目的を達成する為の人権保全機関にすぎない。だから「何となくけしからんから」とかそういうよく分からない理由で人権を外在的に制約することを憲法は認めていない。そういう理解が「公共の福祉」という文言の背景にはあります。
改憲試案はかかる意味を持つ「公共の福祉」という文言を片っ端から「公益及び公の秩序」という文言に書き換えているわけですから、そこには「公共の福祉の背後にある近代憲法的なもの」を積極的に否定する意図があると勘ぐられても仕方がないということです。
【参考】
□改憲案の「新しさ」 (内田樹の研究室)
□政治家も国民も信用できないから憲法がある(Life is beautiful)
□憲法改正権の正体(かぐらかのん)
日本人なら知っておきたい 憲法改正自民党案
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