2016年03月11日

【書評】『幸せになる勇気』。運命の人などいないのか、という問題。

幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII
岸見 一郎 古賀 史健
ダイヤモンド社
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「結論から申し上げますと、アドラーの思想はペテンです。とんだペテンです。いや、それどころか、害悪をもたらす危険思想と言わざるをえません。(本文より)」

現実に打ちひしがれ3年ぶりに「哲人」の書斎を訪れる「青年」。物騒な雰囲気の中で幕が上がる劇薬の哲学問答第二幕です。

前作『嫌われる勇気』についてはいまさら云々するまでもないでしょう。本書は前作の補完という位置付けなので、前作の方から先に読んでおくべきなのは言うまでもないです。逆に『嫌われる勇気』を読んだ後でアドラー心理学の関連本に色々と手を出した人が本書を読むと、知識的にはわりと知っていることばかりになってしまうので、哲学的(?)なインパクトは当然、前作ほどは無い、ということになります。むしろ、それらにいちいち驚愕、憤激する「青年」の初々しさが微笑ましく見えるでしょう。

けど、既存知識もこういう対話の形で読むと別の発見があるのはもちろんです。前半で特筆すべきは問題行動における5段階目的論の詳細な解説。知っている人にとっても良い復習になります。後半はライフタスク(人生の課題)への深い考察が展開されています。終盤の「愛のタスク」論に関しては、本書の中でも特に賛否が分かれるところでしょう。

「『運命の人』などいない」。そう平然と断じ去る「哲人」の「忌々しい洞察」には「青年」でなくとも素朴な反感を覚える人も多いと思います。勿論、「運命の人」の存在なんて科学的に証明しようが無いですけどね。ですけど、この言葉はそういうあたりまえな、シニカルな意味合いでは無いことは前作における「哲人」の「人生に特に意味など無い」という言葉の意味と合わせて考えると自ずと理解できるでしょう。アドラー心理学は決定論を退けて主体論を打ち出していますから、「運命」など最初から決まっていない、自らの決断で選びとるものだと、そういうことなんだと思います。

ちょっと話が逸れましたが、とにかく既知のアドラー関連の類書の中で、「愛のタスク」についてここまで深く切り込んだ洞察は寡聞にして知りません。もっともこのあたりはアドラーよりもエーリッヒ・フロムからの引用の方が多く、わりと岸見先生の独自性が出ているのかもしれないですね。

最後は割と淡々とした終わり方でしたが、すっきりした読後感はありました。いちおう前向きな感じで終わってはますが、「青年」のあまりの拗らせぶりにとうとう「哲人」が愛想を尽かしたという穿った見方もできなくはないですね(笑)
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posted by かがみ at 01:44 | 心理療法