2016年02月24日

【書評】岩井俊憲『アドラー流一瞬で心をひらく聴き方』〜『幸せになる勇気』の予習にどうぞ。「リフレクション」+「勇気づけ」のアドラー流傾聴術。

アドラー流一瞬で心をひらく聴き方
岩井俊憲
かんき出版
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いろいろ言われることも多い、ヒューマンギルド代表の岩井氏の本ですけど、アドラー理論と傾聴技法を架橋しようという試みが感じられて、読んで損はなかったです。

前半4分の1位がアドラー理論の簡単な紹介であとは傾聴技法の解説。要点の箇条書きスタイルなので、あっという間に読める。一般的な傾聴技法の他に、アドラー心理学独自の「勇気づけ」や「課題の分離」という視点を取り入れている。

ビジネスシーンでアドラー理論を活用したい向けの実用書という感じなので、心理療法の深淵を極めて悩める人の力になりたいという人は、どうせ知っているコトばかりでしょうから別に読まなくてもいいと思います。アドラーの個人心理学の理論の深奥についてはこの本だけ読んでもわからないと思うので『嫌われる勇気』なり今度出る続刊の『幸せになる勇気』なり別途、読まれる方がよろしいんでしょう。

リフレクション中心のロジャーズ系の傾聴本を読んで物足りなさを感じている人には、得る物があるかもしれないですね。傾聴=ロジャーズの来談者中心療法(PCA)というのが一般的なイメージなんでしょうけど、PCAを本当に使いこなせるのはロジャーズ博士ご本人ただ一人といっても過言はないでしょう。あれを我々凡人がそのまま金貨玉条的に真似してしまうと、ただの「オウム返しをするだけの人」になってしまいますからね。

要するに、聴き手の適度な自己開示は必要なんですよ。リフレクションで話し手の心の深度を下げたはいいが、さてここからどうするかといった局面で「勇気づけ」という技法はかなり強力な武器になるかと思うんですよね。
タグ:書評 こころ
posted by かがみ at 01:33 | 心理療法

2016年02月21日

問題の本質は保育園が増えないということではない

いまや保育園に入れるかどうかというのは生きるか死ぬかの問題のようです。

「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由 | 駒崎弘樹公式サイト:病児・障害児・小規模保育のNPOフローレンス代表

潜在保育士の問題があるように、もちろん一番の理由は現場の低待遇にあるんだろうけど、記事で言っているように、待機児童の解消というのは重要な政策課題ではあるけど、必ずしも実務担当者レベルでのタスクではない。そんなことより、妙な業者を参入させて何かあったほうが問題になるわけです。あんまり規制緩和をしてしまうとこの間のバス事故みたいなことになってしまうからこのあたりは難しい判断ですが。

ただねえ、そもそも子供が0歳の時点から保育園探しに奔走せざるを得ない社会というのもどうかとも思うわけです。心理学的には3歳くらいまで母子の密接した関係が重視されます。けれども共働きでそんな悠長なことは現実問題言っていられない。育児休業給付の支給は基本1年ですし、なにより2年、3年と休職しようものならキャリアにとって致命傷となってしまう。こういう硬直した雇用構造がこの問題の根っこにあるのは言うまでもないでしょう。

ちなみに、市町村における保育園入所決定の判断は一定の客観的基準によって行われなければならない、行政法学でいうところの羈束裁量行為であり、入所決定の適法性は裁判所で争えるとされています。
タグ:法律 福祉
posted by かがみ at 22:34 | 時評/日記

2016年02月03日

パチンコで生活保護停止

別府市の福祉事務所がパチンコ屋に来ていた生活保護受給者を指導、一部の受給者には1〜2ヶ月の保護停止などの処分を行ったそうです。

パチンコで生活保護を停止した別府市の「罪と罰」|生活保護のリアル〜私たちの明日は? みわよしこ|ダイヤモンド・オンライン

福祉事務所のやったことは法律論としては明らかに無理筋でしょう。パチンコに耽るのが果たして「健康で文化的」なのかはよくわかりませんが、少なくとも建前としては違法じゃないですからね。受給者のギャンブルを直接禁じる規定は生活保護法上もちろん存在しません。別府市は、「生活保護法第60条に基づく処分」であるとしてるそうですが、「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」とする同条は罰則のない訓示規定なので、説明としても大雑把過ぎます。

もっとも、福祉事務所がが被保護者に対し必要な指導又は指示をしたときは、被保護者はこれに従わなければならず(62条1項)、かかる義務違反は保護の停止事由となります(同条3項)。確かに本件では対象となった生活保護利用者たちが、「遊技場には立ち入りません」という内容を含む誓約書を提出していたにもかかわらずこれを反故にしたという経緯があるようですが、福祉事務所は受給者の生活行動に何でもかんでも指導介入できるわけではないです(27条)。行政法には比例原則というものがあります。別に違法行為でもなんでもない行為を禁じるような誓約書を62条のいう「必要な指導又は指示」と解するのは比例原則の逸脱する解釈と言わざるを得ない。

もちろん、保護費を受け取るや否や即日散財してしまうような病的なギャンブル依存症の受給者にはなんらかのフォローが必要でしょう。なお、ギャンブルで得た収入は全額収入認定され、保護費減額の対象なります。10万円つぎ込んで5万円勝った場合、トータルではマイナス5万円ですが、つぎ込んだ額は考慮されずプラス5万円の収入とみなされます。そして収入の申告を怠った場合、もちろん不正受給となることは言うまでもないです。しかしながら、それとこれとは別の問題です。

毎度この手の事案では肉屋を支持する豚みたいな反応をよく見ますけど、なんでああいうことを言うのかよくわかりません。ノブレスオブリージュのかけらもない日本社会では経済成長の基盤として「どんなに失敗しても最悪、生活保護がある」というセーフティネットは不可欠です。老後が不安で皆したくもない仕事をして消耗しているような社会でイノベーションを期待するのが無理というものです。

健康で文化的な最低限度の生活 3 (ビッグ コミックス)
柏木 ハルコ
小学館 (2016-01-29)
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タグ:法律 福祉 憲法
posted by かがみ at 00:16 | 法律関係